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研究内容

所属学会

日本顕微鏡学会

マテリアル基盤研究センター
タイトル

先進的な材料解析を拓く新しい電子顕微鏡技術

キーワード

高速STEM;ナノスケール共振器;プラズモン分光;電場マッピング

概要

電子顕微鏡は、原子スケールの世界を「見る」ための最も強力な手法の一つである。しかし、原子の位置を観察することは、材料を理解するための一つの側面に過ぎない。材料はどのように動くのか? ナノデバイスはどの程度の温度になっているのか? 電場はどこに集中しているのか? そして、微小な材料を損傷させることなく、これらをどのように測定できるのか? 本研究では、STEMを従来の構造観察の枠を超えて発展させ、材料の挙動や物性を新たな角度から捉えるための先進的な電子顕微鏡技術を開発した。高速な電子線走査、時間分解信号計測、分光、微分位相コントラスト法を組み合わせることで、これまで直接観察することが困難であった現象の可視化を可能にした。これらの成果は、電子顕微鏡を単に材料を「見る」ための装置から、材料がどのように機能するのかを理解するための強力な計測プラットフォームへと発展させるものである。

新規性・独創性

本研究の大きな特徴は、従来の画像情報にとどまらず、電子線から得られる情報を新たな方法で引き出している点にある。100 MHzのSTEM走査制御により、電子線位置と電子線量を精密に制御しながら極めて高速な画像取得を実現し、高速現象や電子線に敏感な材料の観察への道を拓いた。さらに、時間領域での信号取得を利用することで、電子線をナノスケールの機械振動を探るプローブとして活用し、異なる熱振動モードの可視化を実現した。また、プラズモン分光から得られるエネルギー変化を利用することで、ナノメートルスケールの温度分布を測定し、電子顕微鏡を局所的な温度計として機能させた。さらに、微分位相コントラストSTEMによって、通常の電子顕微鏡像では見ることのできない原子スケールの電場分布を直接可視化した。これらの技術を通じて、構造だけでなく、材料の動的・熱的・電磁的な性質を総合的に捉えることが可能となった。

内容

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(図は4報の論文から転載(DOI: 10.1016/j.ultramic.2025.114292;10.1021/acs.nanolett.2c03762;10.1016/j.carbon.2022.10.006;10.1021/acsnano.0c10849);各出版社の著作権)

➯ 1. より速く見る:100 MHz STEM

STEMでは、電子プローブを試料上で走査するため、画像取得に一定の時間を要する。そこで、100 MHzのプログラマブル走査制御装置を開発し、走査コイルの応答速度によって生じる画像歪みを抑えながら、走査速度を大幅に向上させた。スパイラル走査を用いることで、最短0.9 msのフレーム時間で高品質な画像を取得できる。また、電子線量を精密に制御することで、限られた電子線量をより効率的に利用し、不要な照射を低減することも可能となった。高速性と線量制御を兼ね備えた本技術は、動的現象や電子線に敏感な材料の観察に向けた重要な基盤となる。

➯ 2. ナノスケールの運動を測る:周波数選択的イメージング

ナノスケールの共振器は非常に高い周波数で振動することができるが、その異なる振動モードを直接観察することは容易ではない。本研究では、収差補正STEMと広帯域の時間領域信号取得、フーリエ解析を組み合わせることで、電子顕微鏡をナノスケール共振器の機械振動をマッピングする手法へと発展させた。この手法により、片持ち梁型ナノワイヤにおける6つの熱振動モードを可視化し、通常のイメージングでは識別が困難な、サブオングストローム振幅を持つ高次モードも観察することに成功した。実験で得られた振動モードの空間分布は有限要素法による計算結果とも一致し、電子顕微鏡によってナノスケール共振器の機械的ダイナミクスを直接かつ空間分解して捉えられることを示した。

➯ 3. 熱を測る:ナノメートルスケールの温度計測

ナノデバイスの温度を測定することは容易ではない。特に、熱が発生している場所そのものに従来型の温度計を配置することは困難である。そこで本研究では、プラズモン分光を利用した新しいアプローチを開発した。カーボンナノチューブに電流を流して加熱すると、その温度に応じてプラズモン応答が変化する。この変化を電子線によって測定することで、ナノチューブに沿った温度分布をナノメートルスケールの空間分解能で求めることができる。本手法は、電子顕微鏡を極めて局所的な温度計として利用することを可能にし、ナノスケール材料における発熱や熱輸送を直接捉える新しい手段を提供する。

➯ 4. 電場を可視化する:原子スケールDPC-STEM

電場は材料の性質や機能を決定する重要な要素である一方、通常の電子顕微鏡像から直接見ることはできない。微分位相コントラスト(DPC)STEMでは、電子プローブのわずかな偏向を測定することで、原子構造と同時に局所的な電場を再構成することができる。本研究では六方晶窒化ホウ素を対象として、ホウ素単原子空孔や拡張欠陥の周囲に形成される電場を原子スケールで可視化した。これにより、原子構造と局所的な電磁特性を直接結び付けることが可能となった。さらに、リアルタイムでの電場マッピングは、材料の変化に伴う電磁特性の追跡にもつながる可能性を示している。

まとめ

ミリ秒の時間スケールから原子スケールまで、本研究で開発した技術は、電子顕微鏡で「見ること」「測ること」の可能性を大きく広げる。高速走査は瞬間的な現象を捉えながら電子線照射を低減し、周波数選択的イメージングはナノスケールの機械振動を明らかにする。プラズモン分光はナノ材料を温度計へと変え、微分位相コントラスト法は原子スケールの電場を可視化する。電子顕微鏡を単に「より鮮明な画像を撮る」ための技術として捉えるのではなく、電子顕微鏡そのものを材料と相互作用し、測定し、そして材料の機能を理解するためのツールへと発展させることが本研究の目指すところである。これらの技術により、原子構造と材料の動的・熱的・電磁的性質を結び付けた、より総合的な材料解析が可能となる。

この機能は所内限定です。
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