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日本物理学会

Research Center for Materials Nanoarchitectonics (MANA)
Title

量子物質における量子もつれ構造の解明

Keywords

遷移金属化合物,高温超伝導,量子スピン液体,量子多体問題,第一原理計算,大規模数値計算

Overview

量子論の勃興期から現在に至るまで、分子や固体中の多体電子に代表される量子多体系が示す、超伝導のような「古典力学からは予想できない量子力学的現象」は、多くの人々を魅了してきた。中でも、量子計算機の計算能力や量子暗号通信の安全性の源となる「量子もつれ」は、新たな時代の「資源」として注目を集めるだけでなく、光合成の高いエネルギー変換効率のような特異な機能を生み出す源として注目を集めてきた。このような背景のもと、我々は量子もつれが決定的な役割を果たす量子スピン液体物質や高温超伝導体の電子物性・磁性の機構解明および定量予測に、第一原理電子状態計算と高精度な量子多体シミュレーション手法を用いて挑んできた。

Novelty and originality

従来、物質科学・材料科学で用いられてきた第一原理電子状態計算の適用が難しく、量子もつれが顕著な物質群として知られる、高温超伝導体およびトポロジカル量子スピン液体の定量的な物性予測を、独自の理論・数値シミュレーション手法を開発することで可能にしてきた。さらに、分光学実験データと理論解析を機械学習によって統合する新たな解析手法を開拓することで、銅酸化物においてなぜ高温超伝導が発現するのか、その機構に迫ることが可能となった。

Details

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固体結晶中の相互し合う多体電子系や量子ビットの集団は高温超伝導や量子誤り訂正符号に代表される量子現象の舞台となる。そこでは、一つの粒子がもつ量子力学的波として干渉できる性質、すなわち可干渉性(コヒーレンス)が消失することがしばしば起こる。にもかかわらず、量子もつれが不可欠な巨視的スケールに及ぶ量子現象が存在する。この謎に挑み、量子もつれを操る基礎科学建設に向かって、多くの研究者が様々なアプローチで研究を積み重ねてきた。
我々は、その第一歩として、スーパーコンピュータ「富岳」を始めとする大規模な古典計算機を用いて、第一原理電子状態計算と量子多体系のための高精度数値シミュレーションを行い、頑健な量子もつれを示す典型的な量子状態であるトポロジカルな「量子スピン液体」、および近年量子もつれの役割が新たな注目を集めている高温超伝導の理論解析を進めてきた。
量子スピン液体の候補物質として国際的に注目を集めながら低温では本質的な量子もつれを消失してしまうイリジウム酸化物やルテニウムハロゲン化物について、これまで行ってきた定量的な物性予測を拡張し、数値シミュレーションとベイズ最適化を統合することで実験データから固体結晶(左図上)内の多数の電子スピンが従う「運動方程式」(左図下)を抽出する手法の開発に挑んでいる。また、なぜ高い温度で超伝導が生じるのかという銅酸化物最大の謎、その鍵を握る電子間の量子もつれ状態を明らかにするため、人工ニューラルネットワークを用いた実験データの解析手法を開発した(右図)。開発した手法を駆使し、銅酸化物高温超伝導体の発見以来、観測データだけでは見えていなかった隠れた物理量の抽出に成功し、この物理量が超伝導を引き起こすことを検証した。

Summary

固体結晶中の量子もつれの構造を解明するため、コヒーレントな準粒子や素励起を構成要素としてボトムアップで構築されてきたこれまでの物性科学に、数値シミュレーションと実験科学を機械学習で統合する新機軸を持ち込む。これによって系全体に広がった量子縺れに基づく、新たな量子凝縮系の科学を展開し、量子情報科学の発展に寄与することを目指していく。

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