研究内容
- Keywords
材料強度学、鉄鋼材料、破壊力学、金属疲労、水素脆化、転位論
フェライト/マルテンサイト/パーライト鋼の疲労き裂進展特性・耐水素性評価 :電子顕微鏡分析による水素脆性き裂発生・進展メカニズムの解明 :合金成分設計およびミクロ組織制御による耐水素オーステナイト鋼の開発 :Fe-Cr-Ni系オーステナイト鋼における固溶水素ー転位間相互作用の解明
所属学会
日本鉄鋼協会, 日本材料学会, 日本機械学会, 日本金属学会
受賞履歴
- 俵論文賞,日本鉄鋼協会 (2023)
- 第38回 井上研究奨励賞, 井上科学振興財団 (2022)
構造材料研究センター
鉄鋼材料中の水素:脆化元素から有効添加元素への転換
鉄鋼材料,オーステナイト,水素脆化,強度・延性バランス,元素戦略
概要
水素原子の侵入に伴う金属の強度・延性劣化(水素脆化)は、鉄鋼材料の高強度化とその水素エネルギー関連機器への利用拡大を阻む障壁となっている。その渦中、我々は安定なFCC結晶構造と特定の合金組成を持つオーステナイト鋼に多量の水素を添加すると、強度と延性の双方が顕著に向上する現象を新たに見出した。これは、水素が材料の塑性変形を担う転位の運動を妨げることと、変形双晶と呼ばれる特徴的な変形モードを誘起することに由来する。これらの効果を応用し、従来の脆化元素としての認識から高強度・高延性化元素への転換を図るべく、変形中の水素-材料間相互作用メカニズムの原子スケールでの解明と、その発現条件の定量化を目指している。
新規性・独創性
● 脆化元素を利用した強度・延性バランスの向上
● 合金成分設計による水素固溶能力と変形モードの最適化
● 水素誘起変形双晶の有効活用
● 水素原子を利用した固溶強化メカニズムの再考
内容
まとめ
オーステナイト鋼はFe-Cr-Niの3元素を主成分とする合金であるが、特にCr量が20%を超え、Cr/Ni比率が高くなるように成分調整した材料では、高温・高圧の水素ガス中へ曝すことによって1原子%に迫る多量の水素を吸蔵し、室温での変形において固溶強化と変形双晶促進効果が発現する。図中の応力-ひずみ特性はFe-24Cr-19Ni(質量%)鋼の結果であり、約0.7原子%の水素によって強度・延性バランス(引張強度×均一伸び)が30%向上した実例である。高圧水素ガス用の鋼管など、内表面からの水素侵入が不可避の鋼材に同様の効果を適用し、かつ高価なCrやNiをMnやSi等の廉価元素で置換することができれば、使用中における材料の自発的な高強度・強靭化や、部材の肉厚低減およびコスト削減に繋がることが期待される。また、水素のように原子半径が小さく、材料中での拡散性が非常に大きい元素が、これほどまでに顕著な固溶強化や変形モード変化を誘起する事実が見出されたことは、学術的観点においても極めて意義深い。同現象の素過程を紐解くことで、材料科学工学において長年の課題であった、侵入型溶質元素(C、N、Hなど)による固溶強化や各種特性変化の本質を再考するための要因としても、水素を利活用できるものと考えている。