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梅澤 直人
退職
2013年3月退職

研究内容

Keywords

材料設計、理論、光触媒、高誘電体酸化物、欠陥物理

応用上重要な材料には複雑な系が多く、理論的研究の対象になりにくい。例えばトランジスターゲート絶縁膜の開発をする際には、電極や基板との界面、格子欠陥、不純物等様々な要因を考慮しなければならず、すべてを包括して計算科学的に扱い、有益な情報をとりだすことは不可能に近い。また光触媒のように、粉末状で用いられる材料は表面構造を明確に定義できないために理論的アプローチが難しい。そこで注目する特性のみに焦点をあて、重要なエッセンスのみを取り出した理論モデルを建てる必要がある。このような考えに基づき、候補者は材料開発の現場で必要とされる情報の提供に努めてきた。具体的には、ゲート絶縁膜中の格子欠陥とドーパントの相互作用がトランジスターの電気特性に大きな影響を与えることを理論的に予測した(Appl. Phys. Lett. 94, 022903 (2009), Appl. Phys. Lett. 93, 223104 (2008))。特に窒素添加によってリーク電流が低減する機構を説明したモデルは世界中で広く受け入れられている(Appl. Phys. Lett. 86,143507(2005) 引用件数64件)。また、CdSやTiO2などの光触媒ナノ粒子を凝集することで可視光吸収が増幅する現象に明快なモデルを提案した。ナノ粒子間の表面接触を増やす事で金属原子間のボンドが形成されバンドギャップが実効的に小さくなることを突き止めた(Energy & Environmental Science 4, 1684 (2011), Chem. Comm. 47, 4219 (2011))。バンドギャップ制御の新たな道を切り開く重要な成果であると考えます。その他、最先端のトランジスターで用いられる2種類の界面(HfO2/SiとLa2O3/Si)の構造の違いを欠陥物理の観点から説明することに成功し、開発の一助となる指針を提示(Appl. Phys. Lett. 97, 202906 (2010))、多価元素酸化物を積載することでHfO2酸化膜中の荷電欠陥の密度を制御できることを予測(Appl. Phys. Lett. 96, 162906 (2010))するなど、材料開発に資する理論モデルの提案に努めてきた。 一例として、高活性光触媒リン酸銀(Ag3PO4)の電子状態について記す(Phys. Rev. B 83, 035202 (2011))。Ag3PO4、Ag2O、AgNbO3の第一原理計算を実行し、それらの電子状態を比較する事でAg3PO4の高い光触媒活性の謎に迫った。これら銀系酸化物のバンド構造を図に示す。Ag3PO4の伝導帯下端はAg s軌道で形成されているために分散が大きく、電子移動に有利な形をしていることがわかる。図中右側に示された波動関数の等高面から、この状態が遍歴的に広がっていることが示唆されている。これは、電子がどの方向に対しても移動しやすいことを意味しており、高い光触媒活性に寄与していると考えられる。Ag3PO4ではAg−O結合の形成が抑制される代わりに、Ag s − Ag sの混成による分散の高いバンドが形成され、他の銀系光触媒に比べて電子の有効質量が小さく等方的であることが理解された。一方、Ag2Oの伝導帯底はAg d − O pの反結合軌道で形成されているために局在化している。また、AgNbO3の場合には、Nbのd軌道が異方的に分布し、電子の移動できる方向が限定されていることがわかる。これらの結果から、Ag3PO4の等方的で遍歴的な伝導帯下端のバンド構造が高い光触媒活性の起源であると結論づけた。酸化反応には主にホールキャリアが関わっているが、バルク内で生成された光励起電子が素早く表面に到達する事でホールとの再結合が抑制されることから、電子の小さな有効質量が間接的に酸化反応を促進していると考えられる。また、Ag3PO4とAgNbO3を比較した場合、ホールの有効質量もAg3PO4の方が小さいく、高い酸化力に寄与していることが明らかとなった。

researchPicture

Band structures for Ag3PO4, Ag2O, and AgNbO3. The square of the wave function (yellow surface) corresponding to the conduction band minimum is also shown in each case where silver, red, mauve, and green particles represent the positions of Ag, O, P, and Nb atoms. The isosurfaces are at 0.01 electrons/Å3. (N. Umezawa, O. Shuxin, and J. Ye, Phys. Rev. B 83, 035202 (2011))

出版物原則として、2004年以降のNIMS所属における研究成果や出版物を表示しています。

会議録
その他の文献
特許

所属学会

日本物理学会、応用物理学会、日本化学会

受賞履歴

  • 第29回応用物理学会論文賞(2007), Award for Encouragement of Research of Materials Science: 16th Symposium of Materials Research Society of Japan(2005) ()
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