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磁性・スピントロニクス材料研究センター
タイトル

有限温度第一原理計算による機械学習と物質探索

キーワード

第一原理計算,機械学習,有限温度効果,スピン揺らぎ

概要

物質の電子構造において、一方のスピン状態に対しては金属的でもう一方のスピン状態に対しては半導体的な電子状態を持つ(100%のスピン分極率を持つ)強磁性体をハーフメタルという。ハーフメタルの1つとして知られるホイスラー合金(Co2MnSiなど)を磁気トンネル接合の強磁性層に用いた実験では、室温におけるトンネル磁気抵抗(TMR) 比の劣化が大きな問題となっている。これはホイスラー合金のハーフメタル性(高いスピン分極率)が室温では磁化の熱揺らぎの影響を受けて低下するためである。そこで本研究では、有限温度の電子状態の第一原理計算と機械学習を組み合わせて材料探索を行い、室温で高いスピン偏極率を保持する新しいホイスラー合金を提案した。

新規性・独創性

これまで、機械学習を用いた材料探索では、主に絶対零度における電子物性の第一原理計算が用いられてきた。しかし、材料の電子物性には温度依存性があり、特に磁気特性は温度によって大きく劣化する。したがって、実際に材料が利用される温度領域で、磁気特性の第一原理計算を行い、材料探索を行うことが必要不可欠である。本研究では、有限温度スピン揺らぎを考慮した第一原理計算と機械学習を組み合わせて、室温で機能性を有する磁性・スピントロニクス材料の理論探索を行った。有限温度での磁気特性に対して材料探索を行った結果、これまでの材料探索とは異なり、室温では使えない材料系を明確にできたことに大きな意義がある。

内容

本研究で考慮した周期表におけるホイスラー合金組成A2BCの探索空間を図1(a)に示す。機械学習としてベイズ最適化を用いて、有限温度第一原理計に基づく物質探索を図1(b)の手順に従って行った。有限温度第一原理計算手法として、図1(c)に示すようにスピン揺らぎを平均場的に考慮したDisordered Local Moment (DLM)法を用いた。図2に物質探索の結果を表で示す。Pspの値が最もTMRに寄与する電子軌道の室温でのスピン分極率である。

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探索の結果、AサイトにCo、BサイトにFeかMnを有する物質のみが有限温度で高いスピン分極率を示すことがわかった。AサイトにFeやRhやRuを有するホイスラー合金はスピン分極率の温度依存性が大きいため、室温では使えない材料といえる。

まとめ

本研究では、有限温度第一原理計算と機械学習により、室温で高いスピン分極率を有するホイスラー合金の探索を行った。特に室温で高いスピン分極率を示す有望な新しいホイスラー合金としてCo2Fe(Al,Sb), Co2Fe(Ga,In)およびCo2Mn(Ga,As)を提案した。Co2Fe(Al,Sb)やCo2Fe(Ga,In)は非磁性単体金属Agと格子整合性がよいため巨大磁気抵抗素子の強磁性層として利用できる可能性が高い。またCo2Mn(Ga,As)はGaとAsを含ことからGaAsへのスピン注入源として期待できる。

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